池澤夏樹著「異国の客」
池澤夏樹がフランスに移り住んだ2004年11月から2005年8月までの随筆集。エッセイと言うより、あえて随筆と呼びたいような歯応えがある。
またタイトルも良い。「百代の過客」にも通じる儚さがある。
欧州の地での暮らしや時事などが書かれているのだが、特に冬から春、そして初夏にかけて、光量が増していく日々の喜びが、手に取るように伝わってくる。また日本から遠く離れた場所から世界を見渡した時、見え方が大きく異なる感覚にも、強い共感が持てた。
自分自身、欧州を離れ日本に暮らし始めて1年以上過ぎた今、どこかこの島国に息苦しい違和感を抱いている。幼稚な政治と目標を見失った経済の国。歴史と文化の誇りを忘れ、世界の悲しみと苦しみに目を逸らした国民。その中に埋もれて行く自分が何よりも恐ろしい。
尚、この随筆は著者の公式サイトでも読めてしまう。金を払って紙に印刷された文章を読むか、無料でパソコンのモニターで読むか、我々には選択の自由がある。
Comments