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2008.03.11

福田和也著「地ひらく 石原莞爾と昭和の夢」

4部構成、全65章の大著である。石原莞爾の評伝なのであるが、石原の登場率が低く、時代背景への言及が多い。そのためか読了後、石原莞爾とは結局何者だったのか良く分からない。
貧しい家庭に生まれながら、陸軍幼年学校から、士官学校、陸軍大学、ドイツ留学とエリート・コースを歩んだ天才。根は悪い奴ではないのだが、頭が良すぎて周りを馬鹿にしたところがあり、世の中に馴染めず孤立していた。戦略家であるくせに、理想主義者であり、横暴であるのに、心やさしい面もあった。
そんな石原莞爾が主犯となった満州事変についても、この本では核心に迫っていない。それどころか、まるで石原莞爾が脇役であるかのごとく淡々と書かれている。
満州の地に理想郷を夢見た石原莞爾が、なぜ満州事変という謀略を行ったのかに迫っていないのだ。石原ほどの見通しの利く男が、理想のためならば手段を選ばないなどという、幼稚な理由で画策したとはどうしても思えない。その結果生まれた満州国は、石原の夢見た理想とはほど遠い、インチキ国家になってしまったし、日本社会に謀略すら正当化されるような思想風土を植えつけてしまった。
確かに石原が考えた理想国家は素晴らしい。日本をはじめとするアジア諸国が、欧米列強と肩を並べるための方策としては、歴史的偉業かもしれない。今でこそ日本人が人種差別の的になることは少ないが、20世紀初頭には黄禍論が依然根強く、欧米首脳でさえ日本人を劣等人種だと思っていた。そのような世界の雰囲気を十二分に理解していた石原にとって、理想への邁進だけが唯一の救いの道だったのかもしれない。
著者福田和也は石原贔屓で、石原の功罪をバランスよく書いているとは言えない。その代わり、石原の登場しない時代背景を書いた章は、なかなか素晴らしい。
ルーデンドルフを中心に捉えた第1次世界大戦への言及については、興味深いものであるし、日中戦争中の蒋介石の立場も分かりやすく書かれていた。昭和12年7月の盧溝橋事件から12月の南京攻略までに、何度も講和のチャンスを逃したくだりでは、歴史のifを考えずにはいられなかった。この盧溝橋事件当時、石原は参謀本部第1部長として不拡大の方針を持っていたが、その力は及ばず、泥沼の戦争に突き進んでいく結果となった。因果応報である。
石原莞爾の夢は、満州を完全な多民族独立国家にすることだった。日本の支配を排除するためには、日本とも戦争するつもりだったのだろう。その独立戦争の中で、戦死するのが夢だったのではなかろうか。

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