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2007.11.21

女王再臨 Anne-Sophie Mutter演奏会

Anne-Sophie Mutterを聴くのは今年2度目になる。前回2月10日は、バッハ中心の比較的地味な演目だったが、昨日の彼女はAndré Previn指揮によるコンセルトヘボウ・オーケストラという強力な布陣を配し、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲を演奏したのだ。
開演してまず驚いたのは、Previnがとんでもなく老け込んで、歩くのも覚束ないほどに登壇し、椅子に腰掛けて指揮をしたことだ。それからオーケストラも右に第2バイオリンを置く古典的な楽器配置。最近この配置は流行なのだろうか。
演奏会1曲目は小手調べに、グリンカの短い序曲。老いたとはいえ流石Previn。腰掛けた身体は全く動かさず、両手だけで流麗かつ明快な指揮ぶり。素人の自分が観ていても、オーケストラへ何を指示しているのかがよく分かる。コンセルトヘボウも名門らしい豊潤な音色を醸し出していた。
そして2曲目。待ってました。現役最高峰のバイオリニストAnne-Sophie登場。いつもながらの両肩を出しウエストを絞ったドレス姿は、古臭い例えだが、コカコーラの瓶のようで、いつ見ても惚れ惚れする。
Annesophie
まずは何よりチャイコフスキーを選曲した勇気に敬意を表さなければならない。普通彼女ほどのキャリアであれば、安全策として、あまり演奏されない通好みの曲を選ぶものだ。独自の解釈で思い切った演奏をしてもケチが付きにくいからである。ところがAnne-Sophieは、誰もが知っている名曲中の名曲を、耳の肥えた聴衆相手に真っ向から勝負しようというのだ。
野球に例えるならば、予告本塁打のようなものではないだろうか。それも先頭打者が初球をバックスタンドに放り込もうと企てる暴挙に近い。ところが彼女はそれをやってのけてしまったのだ。それも弾丸ライナーのような物凄い演奏で!
とにかく彼女の演奏は、強弱緩急が尋常ではない。普通ならば下品になりかねないところを、彼女は恐れることなく、そのギリギリの線まで踏み込んで行く。
彼女の演奏を聴きながら、こんなことを考えた。
協奏曲は指揮者やオーケストラのものではない。更には作曲家やましてや聴衆のものでもない。ソリストただ一人のものである。ソリストが演奏したいように演奏するためだけに存在するのだ。そう洗脳されてしまうほどの迫力があった。
第1楽章だけで自分も含めた観客は完全にノックアウト。感極まった観客の中には、拍手をしてしまう人も多くいた。
第2楽章は比較的オーソドックスなテンポだったが、音色の太さにはいつもながら感心。ゆっくりと歌う弱音部でも、まるでチェロのように暖かく響くのだ。
第3楽章ではもう彼女の独壇場で、そのあまりの過激さに、時折流石の名門オーケストラも付いて行けず、多少ズレてしまう箇所もあった。ピチカートの箇所では、そんなに強く指ではじいたら、バイオリンが壊れてしまうのではないかと心配になるほどだった。
演奏が終わった時点で、自分にとって、暫定的ではあるが、人生最高の演奏を聴いたことを強く実感した。
拍手喝采の嵐に、何度もステージに呼び戻されたことは言うまでもない。
休憩時間には、ロビーで即席サイン会が行われ、観客が大挙押し寄せ大変な騒ぎになった。自分もサインは無理だったが、カーディガンを羽織り談笑しながらサインする彼女を間近で見ることができた。
休憩後の演奏会3曲目は、ラフマニノフの交響曲第2番。Anne-Sophieの演奏で満腹の後に、この大曲は正直辛かった。できれば次回に取っておきたいほどの名演だった。カツ丼大盛りを食った後に、すき焼きの鍋が出て来た気分だった。あぁ、贅沢は罪だ。

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