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2007.02.19

青山七恵著「ひとり日和」文藝春秋2007年3月号

フランクフルトには日本語書店が一軒だけある。雑誌や文庫本が日本の二倍近い値段で売られている。品揃えも少ないので普段利用することはないのだが、文藝春秋最新号に石原慎太郎と村上龍と綿矢りさの鼎談が載ったので買い求めた。鼎談は当たり障りのない世間話程度で、文学論などには全く踏み込んでいず期待外れ。
同号に芥川賞受賞作の「ひとり日和」が全文載っていたので、折角だからと読んでみた。何だかぼんやりとした虚無感に満ちた小説だった。
「まるで綿矢の『インストール』の続編だな」と、読み始めてすぐに思ってしまったためか、読みながら2時間ドラマのように頭の中で映像化してしまった。登場人物のキャスティングは、主人公の20歳のフリーターに上戸彩、同居することになった遠縁の老婆には森光子、主人公を残して中国に行ってしまったその母親には原田美枝子。こう配役してみると結構読めるものになった。
ストーリーは単純で、主人公が老婆との一年間の同居生活の中で、失恋をしたり、転職したりしながら、淡々と時間が過ぎていく。
芥川賞選考委員でもある石原慎太郎と村上龍は揃って褒めているが、むしろ同委員の山田詠美が評した通り、「大人の域に一歩踏み出す手前のエアポケットのような日々が淡々と描かれ……いや淡々とし過ぎて、思わず縁側でお茶を飲みながら、そのまま寝てしまいそう……日常に疲れた殿方にお勧め。私には、いささか退屈」に全く同感。
出来の悪い小説ではないが、物足りなさが残る。

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2007.02.16

森まゆみ著「明治・大正を食べ歩く」PHP新書

Tabearuku軍鶏と書いて「しゃも」と読む。つまりニワトリ同士を喧嘩させる、あの鶏。その軍鶏のモモ肉、ムネ肉、皮、レバーと、ネギ、シラタキ、豆腐を入れて鍋にする。「軍鶏鍋」だ。あぁ、食べたい。
あさりと小松菜を甘辛く煮て、ご飯にぶっかけたのが「深川飯」。あぁ、これも食べたい。
浜名湖だけが鰻じゃない。霞ヶ浦、利根川、九州有明だって天然鰻の名産地だ。春に生まれた鰻はエビを餌にしているので、あっさり軽い味。それを割いて、串に刺し、素焼きにして、蒸して、たれをつける。「蒲焼き」だ。ドイツの白ワインに合うんだろうなぁ。

海外にしばらく暮らしていると、無性に日本の味が恋しくなる。海外暮らしの日本人が数人集まれば、必ず食べ物の話題で盛り上がる。日本に一時帰国する時、「食べたいものリスト」を準備する人も少なくないくらいだ。
そんなセンチメンタルな傷口に、塩を塗り込むようなのが、この本だ。雑誌編集者で作家の森まゆみが、東京の老舗を食べ歩いている。
この本の憎らしいのは、ただ食べるだけでなく、その店の界隈の雰囲気も、ちゃんと描写されているところだ。そして店の人に、その店の歴史や懐かしい話をいろいろと聴いている。つまり散歩が三分の一、歴史談話が三分の一、そして食べるが三分の一の割合で、この本はできている。さらに新書版のくせに、カラー写真や地図などの図版もたっぷり載っている。
あぁ、なんて残酷で無慈悲な本なんだ。

ふるさとは遠くにありて片思い
鶏鍋ざるそば穴子飯、、、

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2007.02.11

Anne-Sophie Mutter Benefizkonzert

昨日2月10日(土)、現役世界最高峰のバイオリニストAnne-Sophie Mutterの演奏会に行った。演奏曲目は、バッハを中心としたバロックの協奏曲を4曲。会場はいつものAlte Oper
チケットは130ユーロもしたのに、席はステージに向かって右後方の変な場所で、Anne-Sophieの左肩越しに客席を見渡すような席だった。これより高額な良い席は、流石に売り切れていた。
7時に開演。静まりかえったホールに、ヒールのこつこつと鳴る音が響いてAnne-Sophie登場。ダーク・シルバーのドレスは、肩から背中が大胆に開き、ウエストの締まりを強調している。それはまるで女帝の風格。ホールの割れるような拍手をよそに、会釈もそこそこに颯爽と演奏開始。
一曲目は無難にバッハのBWV 1041。二曲目は若手韓国人バイオリニストYe-Eun Choiを加え、同じくバッハのBWV 1043「2本のバイオリンのための協奏曲」。これもまたオーソドックスにまとめた感じ。
ここまでは勿論、高品質な世界レベルの演奏ではあったが、Anne-Sophieらしいスリリングな演奏はまだ出ていなかった。本来Anne-Sophieは、ロマン派の難曲などでその実力が発揮されるタイプなので、バロックでは安全運転なのかなと、少しあきらめていた。
約15分の休憩の後、3曲目もバッハのBWV 1042。この曲ではかなりエンジンが掛かりだして、要所要所でギラリとした凄みのある音を出し始めた。
そして4曲目がタルティーニの「悪魔のトリル」。原曲のソナタを、ザンドナーイが協奏曲に編曲し、カデンツァがクライスラーのもの。これは凄かった。特にこのカデンツァは、この日最大の見せ場で、Anne-Sophieの豪腕が唸った。もうバロックではなく、濃厚なロマン派になっていた。きっとパガニーニやサラサーテもこんな演奏をしたのだろうと考えながら聞き惚れた。このカデンツァを生で聞けただけでも、ヨーロッパに住んだ甲斐があるというものだ。
今回の演奏会で、流石に超一流の演奏家は凄いとあらためて痛感した。特に微弱音でも、ホールの隅々まで音が明瞭に届くのだ。また、アンコールを除く4曲が、尻上がりに出来が良くなっていくのにはすっかり感心してしまった。
途中3曲目でハプニングもあった。あまりの名演に観客達が楽章間でも拍手をするようになったのだ。それに対して別の観客達が「シー」と戒めるようになり、ホール内がちょっと変な雰囲気になった。するとAnne-Sophieが思いもよらず客席に語りかけたのだ。「拍手はご自由ですよ」と。客席からは暖かい拍手が湧き起こった。
そして最後にアンコールは、ビバルディの四季の冬の第2楽章ラルゴ。食後のカプチーノのような、ほのぼのとした味わいで、約2時間の演奏会を締めくくった。

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2007.02.06

伊吹和子著「川端康成 瞳の伝説」

昨日書いた川端康成の「源氏物語」のことが気になって、いろいろと調べてみたら、川端の編集者であった伊吹和子が随筆にそのことを書いていた。その随筆が「川端康成 瞳の伝説」
そもそも伊吹和子は、高血圧症でペンが持てなくなった谷崎潤一郎の口述筆記者として現代語訳「源氏物語」に係わっていた。その後中央公論社に入り、編集者として川端を担当していたのだ。

この随筆によると、川端が伊吹に気を許すようになった頃、伊吹の出自や経歴を尋ね、谷崎源氏の口述筆記をしていたことに特に興味を持ったそうだ。
そしてノーベル賞を受賞した後の頃(瀬戸内寂聴の証言に近い)、川端から「谷崎さんの源氏の訳は、どのくらいの時間がかかりましたか」と尋ねられた。「新譯」は10年前後、仮名遣いを直すことが中心だった「新々訳」は2年程度だったと答えると、更に「新譯」の執筆手順を詳しく聞いてきた。そして、
「実は僕も、源氏を訳してみようかと思ってるんですけど」とぽつんと言った。
「谷崎さんのように学者のブレーンを頼まなくても、あなたが手伝ってくれれば、まあ五年で完結するでしょう。どうですか」
伊吹は胸が高鳴り、有頂天になってしまった。
伊吹は会社に駆け戻り、すぐに契約書を交わすことを上司に訴えたが、ノーベル賞のお祭り気分で冗談を言われたのだと相手にされず終わってしまった。
つまり伊吹は、瀬戸内寂聴が京都で見た原稿を見ていない。
本当に川端康成は、「源氏物語」の現代語訳に着手していたのだろうか。
鎌倉に住んだ川端が、横須賀線の車中で、木版の源氏を愛読していたことは有名だそうだ。

なおこの随筆は、日本ペンクラブの電子文藝館というサイトで全文読むことが出来る。文豪川端康成の素顔が垣間見えて非常に興味深い随筆だった。
このサイトでは他にも、著作権が消滅していない、志賀直哉や川端康成などの作品もある。

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2007.02.05

川端康成訳「源氏物語」

職場で日経新聞の欧州版をとっている。昼休みに2月3日(土)の朝刊を読んでいて驚いた。
瀬戸内寂聴が「奇縁まんだら」という連載エッセイに、川端康成が「源氏物語」の現代語訳を手がけていたと書いていたのだ。それも彼女が、京都の都ホテルの川端の部屋で、その原稿を目撃しているのだから、これは紛れもない事実だ。
以下、このエッセイから重要な点を抜粋すると、

部屋に通れといわれて入ったら、ドアから真正面の窓際の机の上に原稿用紙が広げられていて、今、置いた風情で万年筆が乗っている。あまり大きくない机の左側に、数冊の分厚い本が置かれている。すべてが源氏物語の古注釈書であった。
「先生、源氏の訳なさるんですか?」
 私が思わずすっ頓狂な声をあげると、
「ええ、まあ、やっぱりやってみようかと思って」
 と、ちょっと口元をゆるめられた。
「三人の訳があるから、今更と思ったけれど出版社がきかないんで」
 とおっしゃる。

この三人とは、与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子のことである。
川端は更にこの三人の源氏を次のように評してもいる。

与謝野さんのが一番簡潔でいいんじゃないですか。谷崎源氏は訳と言うより、原文そのままの感じがする。円地さんのは、あれは円地さんの小説源氏だね」

知っての通り、川端はこの源氏物語を世に出していない。幻の作品なのだ。川端がそんな仕事をしていたとは、今日まで全く知らなかった。これは大変な歴史的証言だ。
もし川端がそのまま源氏を書き上げていたら、日本人にとって大きな文学的遺産になっていただろうと、悔やまれてならない。

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2007.02.01

hr-Sinfoniekonzerte

去る1月26日(金)の晩、ドイツに住んで初めてクラシックの演奏会に行った。
地元フランクフルトのhr-Sinfonieorchesterの定期演奏会。
「hr」とは、ここヘッセン州の放送局であるHessischer Rundfunkのことで、普段は「ハー・アール」と呼んでいる。このhrが持つオーケストラがhr-Sinfonieorchester。但しこの名前になったのは昨シーズンからで、それまではFrankfurt Radio Symphony Orchestraという名前だった。このフランクフルト放送交響楽団という名前を挙げれば、馴染みのある愛好家も少なくないだろう。一昔前、Eliahu Inbalが指揮をし、マーラーやブルックナーの名演を残している。

まずはチケット購入。思っていたより簡単で、1週間前に会場となるAlte Operのチケット売場ですぐに買えた。たまたま売場の女の子が暇そうにファッション雑誌をめくっていたので、「金曜の演奏会のチケットある?」と気軽に聞いてみたら、懇切丁寧に座席表を指し示して、チケットが残っている席とそれぞれ値段を説明してくれた。1番高い席を買って44ユーロ。日本の相場に比べれば、随分安いと思う。
当日は開演が8時だったので、7時半頃に行ってみたら、予想以上に多く人が集まっていて驚いた。クロークにコートを預け、ロビーに行くと紳士淑女達がワインを片手にご歓談。残念ながらクルマで来ていたため、その輪には加われなかった(ジョークを言えるほどドイツ語も話せないしね)。
Janineさて今回の演奏会は、Andrew Littonが客演で指揮をし、バイオリン・ソリストに若手売り出し中のJanine Jansen(写真)を招いて、以下の曲目が演奏された。

 Richard DanielpourのCelestial Night
 Max Bruchのバイオリン協奏曲1番
 Gustav Holstの惑星

今回の席は前から2列目のド真ん中で、相撲で言えば砂かぶり! 見上げると指揮者のお尻が目の前にあり、左耳からは主席バイオリン、右耳からは主席チェロの音が飛び込んでくる。オーケストラの中に放り込まれたような位置関係だ。
1曲目と3曲目の管弦楽曲は、Andrew Littonお得意(?)のリズミカルな曲で、オーケストラもそれに応じて本場の芸達者振りを発揮していた。特に席が良かったせいか、普通CDでは良く聞き取れない弦楽器のピチカートが立体的に迫ってきた。
2曲目のブルッフの協奏曲では、Janine Jansenが目の覚めるような深紅のドレスで登場。客席からは溜息も少々。それにしてもこのオランダ淑女は身体がデカイ。その割に演奏はその迫力を殺した女の子らしいものだった。ロマンチックを前面に出し、まとまりの良い演奏で、個人的には少し物足りなかったが、それでも聴衆はブラボーを連呼していた。
終演は10時半頃で、外に出たら、この冬初めての雪が舞っていた。

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