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2006.08.21

矢作俊彦著「悲劇週間」

Higeki20世紀初頭のメキシコを舞台とした恋と革命の長編小説。
主人公は、メキシコ公使の父親に呼ばれ、その地に就いた20歳の青年、堀口大學。そう、詩人であり翻訳家として後年高名を為す堀口大學である。
大學は偶然にも出逢った、コーヒー色の肌のメキシコ娘、フエセラ・ポラドーラ嬢に恋をする。フエセラはメキシコ大統領の姪。大學は自由奔放で魅惑的なフエセラに心奪われ、偶然の再会を求め、夜会に足を運び、街を徘徊もする。やがて親しく言葉を交わし、二人だけで逢うことも叶うが、フエセラの気持ちを推し量ることが出来ない。
その他の登場人物達の生き様も、この小説の大きな魅力である。
公使館の庭師、野中老人は戊申の際、幕軍として戦い敗れ、植民団としてメキシコに流れ着いた。開墾地では洪水、日照り、マラリヤと闘い、高給欲しさにアメリカの捕鯨船にも乗ったという苦労人。
フランス語の家庭教師、ドン・ルイス・ペレンナという老紳士は元フランス軍将校で、メキシコ遠征後、幕末幕府に砲術を指導し、その後普仏戦争にも従軍、パリ・コミューンにも加わっている。
そしてフランシスコ・マデロ大統領。前ディアス政権を革命で追い落としたにもかかわらず、殺生事を嫌い、学者のように知的で、普段は物静かな紳士である。小説クライマックスでは、軍部のクーデターを受けることになる。
大學の父もまた、1894年朝鮮での閔妃殺害事件に関与したという暗い過去を持ち、外交官としてだけでなく義侠心を持って、マデロ大統領の苦難に手を差しのべる。
明治が終わろうとするこの頃、日本はロシアに勝って世界に躍り出たとは言え、まだ19世紀から続く過去を引きずり、20世紀という全く新しい時代が見えないでいた。日本だけではなく、メキシコにとっても、欧州列強にしても、そしてアメリカにも。
この人類史の大きな転換期に、大學はこのメキシコで、詩作と恋だけに暮らすことは許されず、砲声と市街戦、多くの市民の犠牲を目の当たりにすることになる。
作者である矢作自身は、本作のマンガ化や宝塚歌劇化を望んでいると、インタビューで冗談(本気?)を飛ばしているが、いやいやご謙遜、ハリウッドが映画化しても良いほど面白い作品だった。ただ、脇役達が語る歴史観や世界観、人生観は、小説でこそ味わうことが出来るものだろう。

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