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2005.12.06

バーバラ・W・タックマン著「八月の砲声」

子供の頃、「第一次世界大戦はオーストリア皇太子の暗殺が切っ掛けに始まった」と習った。確かに1914年6月28日に、オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公は、セルビアの国粋主義者によって殺され、翌月7月28日にオーストリアはセルビアに宣戦布告した。
しかしここから世界大戦を読み始めても、全く情勢を理解できず無意味に終わる。本書は皇太子暗殺から遡ること4年前、1910年5月のロンドンでの英国王エドワード7世の葬儀に始まる。このエドワード7世こそ、ヨーロッパ各国王家の間での姻戚関係における要であり、平和の支え棒でもあった。
新興国ドイツは、19世紀の植民地競争に出遅れ、狭い欧州大陸の真ん中で、ロシア、フランス、イギリスなどの強国に包囲され、圧迫感を募らせていた。成長拡大こそ帝国主義の本質であるが故にか、近隣諸国、特にフランス侵略は、ドイツにとっての必然的宿願であった。
フランスにとっても、ドイツからアルザス地方を奪還することは悲願であった。
つまり乱暴に言えば、ドイツもフランスも戦争を望んでいたのだ。
第一次世界大戦のメインマッチはこのドイツ対フランス戦なのだが、これにイギリスとロシアが加わり、ベルギーが巻き添えを食い、バルカン半島には火がつき、遠い太平洋では日本が火事場泥棒を狙っていたという、この壮大な構図が世界大戦の全容だ。但し本書は欧州大陸の西部戦線にフォーカスして物語を進めている。
本書の後半では、開戦から約1ヶ月間のドイツ軍のフランス侵攻が書かれている。タイトルの「八月」とは、この1914年8月を指している。
開戦後ドイツ軍右翼は計画通りにベルギーを通過し、北からフランス国境を越え、パリに向け進撃を続けた。フランス軍はそれを止めることも出来ず、退却を続けるばかり。但しそれは敗退ではなく、結果的に兵力を温存した後退だった。ドイツ参謀総長は捕虜の少なさが気になっていた。それに加えドイツにとって、ロシア戦のため東部戦線に2個軍団の兵力を移したことが後に響いた。
本書はドイツ敗退の始まりとなる1914年9月のマルヌ会戦で終わっている。しかし戦争はその後も決着がつかず、4年間も続いた。
とにかく本書は面白い。開戦までの経緯が分かりやすく書かれている。多数の登場人物にも、印象的なエピソードを絡ませ、個性的に仕立てている。それでいて、ストイックな歴史書としても読み応え充分である。

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