« July 2005 | Main | September 2005 »

2005.08.22

宮崎喬著「ヨーロッパ市民の誕生」岩波新書

フランクフルトに暮らして、特に気付くのは外国人の多さだ。トルコ人を筆頭に、東欧、ギリシャ、イタリア、中東などから来た多くの人々が暮らしている。
また女性の社会進出も当然の如く為されている。市長は女性であるし、タクシーや路面電車の運転手にも女性が多い。市内を巡回しているパトカーは、男女二人組であることが多い。その反対にスーパーマーケットのレジ係は男性も多い。更に普通の一般雑誌にも、音楽や映画、スポーツのページと並んで、同性愛者のページもある。
こういった人種や国籍、文化、言語の多様性、ジェンダー等への姿勢が、必然的とは言え、日本とは大きく違う。
本著は、そのような実情を丁寧にレポートしており、普段ぼんやりと感じていた考えを整理するのに適していた。
特にヨーロッパは、外国人居住者の課題に、実に真摯に対応していると思う。わずかに排他的な動きが出れば、それを毅然と否定する良心が働く社会風潮がある。それには今でもナチスへの反省があることと、多様性を旨く利用しようとするしたたかさもあると思う。
例えば、ここフランクフルトでは低賃金労働の多くを、トルコ人や東欧人が担っている。彼らの存在を否定しては、社会が成り立たないのだ。但しこれは差別ではない。高等教育や高度な職業訓練を受けていなければ、ゲルマンであろうと低賃金労働に就いている。単にトルコ人等のその比率が高いだけなのである。それでもフランクフルトにはスラム街もなく、治安も非常に良い。
支配、被支配という構造ではなく、社会の中の役割分担による違いを認め合い、お互いが安全に共存することを、ヨーロッパは世界に先駆けて実験しているように感じる。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2005.08.18

グレン・グールド "モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲集"

gould先週ベルリンに行った。我が町に比べると大都会だが、あっちこっちで工事中、街のつくりも雑然としていて、お世辞にも綺麗な町だとは言えなかった。但し大都会だけあって便利さは東京並みだ。
例えば、壁崩壊を経て再開発されたポツダム広場周辺は、東京で言えば汐留や品川駅東口の雰囲気だった。その中心とも言えるソニーセンターは、無線LANが無料で使えるHot Spotになっていて、噴水脇に腰掛け、パソコンを開いている男女を多く見かけた。かく言う小生も持参のiBookでメールをチェックした。
大都会の特徴として、やはり店での品揃えが豊富なことだ。特に感心したのが、クラシック音楽のCDの豊富だ。いくつかCD屋を巡った中で、Sバーンのフリードリッヒ通り駅に近いDussmannという本屋&CD屋は、地下が広大なクラシック音楽の売場になっていて、東京のどの大型店より品揃えが充実していた。あまりの豊富さに面食らってしまい、結局ありきたりなものしか買わなかった。築地に行って鯵の干物を買って帰ったようなものだ。

その中でもグレン・グールドによるモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲集は面白かった。
今までグールドのバッハやハイドンには感心していたが、意外にもモーツァルトは聴いていなかった。
はっきり言って、演奏は変だ。普通のピアニストなら絶対に弾かない表現をあえてしている。軽快に弾くところを重厚に、じっくり聴かせるところを猛スピードで弾ききってしまう。ところが不思議に醜悪さはなく、爽快感が残る。

因みに、他に購入したCDの中で、トスカニーニ指揮のベートーヴェン交響曲全集も、予想以上に音が良く、帰宅後好んで聴いている。
ドイツに来てから、なぜかベートーヴェンを頻繁に聴くようになった。特に交響曲や弦楽四重奏曲をあらためて聴き直している。なぜだろう? 日本にいた頃はあまり好きじゃなかったのになぁ。気候のせいかな?
とにかくドイツの夏は涼しい。ベルリンは特に寒いほどだった。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

2005.08.09

「吉田初三郎のパノラマ地図」

yoshidaGoogle Earthの面白さは、大袈裟に言えば「神の目」を得た感覚かもしれない。
そもそも地図を眺めること自体面白いものだ。Sim Cityのようなゲームも、フライト・シミュレーターで地上を見下ろすのも、カー・ナビゲーション・システムを眺めていることすらも、なぜか楽しい。
この気分に最もヒットしているのが「鳥瞰図」だ。鳥瞰図は、真上から見下ろした2Dではなく、鳥の目で眺めた3Dである。Sim Cityで言えば初代ではなくSim City 2000以降に相当する。
この鳥瞰図の大家と言えば、大正・昭和に活躍した吉田初三郎を筆頭にあげられるだろう。この初三郎の作品は、別冊太陽が出している本書で楽しめる。
とにかく初三郎の作品は色使いが美しく、構図のデフォルメが楽しい。例えば、南九州の鳥瞰図には、海の向こうの台湾まで描かれている。島々を結ぶ航路には汽船が行き交い、街道筋には桜並木が咲誇っている。
初三郎の鳥瞰図は、実用地図としての価値はないが、旅情を誘う観光地図としては絶品だ。
もしこの初三郎の鳥瞰図が、Sim Cityのように動きだし、Google Earthのように地球上どこへでも自由に散歩できたら、どんなに素晴らしいだろう。シミュレーション・ゲームや地図ソフトの開発者に期待したい。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

"Calypso@Dirty Jim's "

Calypso酷暑の日本には申し訳ないが、ここしばらくドイツは寒い。昼間でも20℃程度と涼しく、朝晩は長袖を着ないと風邪をひきそうだ。贅沢な言い分かも知れないが、暑さが恋しいので、カリプソでも聴くことにした。
とは言ってもカリプソには不案内なので、それらしいコンピレーションを1枚買ったら、大当たり!!!
実に脳天気で、南の島の日光浴気分になれた。
特に気に入った曲は、Calypso Roseが唄う"Rum & Coca Cola"。名前が「カリプソの薔薇」ですよ。いくら芸名とは言え、この直球勝負に惚れるところだが、写真を見ると「この道40年よ」と笑いかけてきそうなオバさん(ジャケ写は別人)。このガッカリ感が南国の大らかさなのかな。
どうもこのCDはDVDでも出ているようで、そちらも気になるところだが、当面FMトランスミッター装着のiPodに入れて、カーラジオで聞いている。刈り終えた麦畑を横目に、アウトバーンを疾走しながら聴くカリプソも乙なものです。
あぁ、このままアルプスを越えて、地中海まで逃避行したい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2005.08.08

伊丹十三著「ヨーロッパ退屈日記」

昭和四十年というから1965年、今から40年前に出された本とは思えない。とにかく面白い。ヨーロッパの上流社会の優雅な生活を描いている。今の日本人で、これ程の域に達した人が、このヨーロッパに何人いるのだろうか。
象牙色のジャギュア・マークⅡで動物園に蟻喰いを見に行き、そのジャギュアを駆って、ロンドンからドーバーを飛び越え、パリやスペイン、イタリアまで足を伸ばす。そしてまた、スクリーン・テストに合格した自分へのご褒美にロータス・エランを注文。
クルマだけでなく、ファッション、料理、語学、更には本業の映画や演劇に至るまで、洗練された博識が披露されている。
交友関係も豪華な登場人物を配しており、ヴェニスで三船敏郎とタタミイワシを焙り、チャールトン・ヘストンから、ロンドンの高級店で乗馬靴を注文した時の失敗談を聞く。
ハリウッドの端役時代から、ロンドンで乗馬靴を注文するのが夢だった彼は、勇気を出して店に入ったが、どんな種類の馬に乗るのかなどを事細かに尋ねられ、やっと寸法を取った後、足のレントゲン撮影までされた。注文して半年後に乗馬靴は届けられたが、中に入っている木型がどうしても取れない。「多分、あれは乗馬靴じゃなくて、木型を保存するための革ケースだったのかもしれんね」と大スターは赤面した。それを聞いた映画プロデューサーが、ロールス・ロイスを注文した時、扉の外につける御紋章はいかがいたしましょうか、と聞かれて困ったというオチは高次元だ。
確かに今もこのヨーロッパには、階級社会が生き続けていると感じることがある。
いつもジョギングしているマイン河畔のボートクラブには、週末の宵ともなると、タキードとドレスの紳士淑女がメルツェデスで集い、河畔を見下ろすクラブハウスのテラスでシャンパンを傾けている。河畔の芝生で日光浴しているのは低所得のドイツ人労働者かトルコ人、東欧人が多く、ビールを片手に、走っているこの日本人を奇異の目で見上げている。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« July 2005 | Main | September 2005 »