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2004.05.02

保阪正康著「幻の終戦」

副題にある「もしミッドウェー海戦で戦争をやめていたら」という仮説をテーマにした論説書。
前半第一部はミッドウェー敗戦までの史実を充分に分析し、後半第二部では大胆にもその後の終戦工作を描いたフィクションとなっている。
第一部の史実分析で、なかなかの卓見だと感心したこととして、1942年4月18日の米海軍第17爆撃連隊ドウリットル中佐による本土爆撃を取り上げている。このB25双発軽爆撃機16機での爆撃は真珠湾攻撃以来、優勢を誇っていた日本にとって、突然首都圏を狙われたショッキングな事件であった。被害は焼夷弾をわずかに落とされたに過ぎない軽傷だったが、東条英機首相をはじめ山本五十六連合艦隊司令長官をも動揺させた。短期決戦・早期講和を画策していた山本五十六は、1942年10月に予定していた再度のハワイ攻撃を成し遂げての戦況優位を、講和への必要条件と思案していた。そのハワイ再攻撃の前哨戦として、ミッドウェー作戦を位置付けていた。つまりこのドウリットル爆撃が、ミッドウェー作戦実行の引き金になったと分析している。
整理すると、1941年12月8日真珠湾攻撃、翌1942年2月15日シンガポール攻略、同年4月18日ドウリットル爆撃、同年6月5日ミッドウェー敗戦となる。つまり開戦後約半年で日本の優勢は崩れ、敗戦への坂道を転げ落ちることになる。山本五十六が描いた短期決戦・早期講和の構想も崩れ去った。
そして第二部からは、フィクションがスタートする。1942年8月25日、吉田茂が岳父であり天皇の信任が厚い牧野伸顕を動かし、第4次近衛内閣を誕生させる。吉田自身も副首相として入閣。陸相に宇垣一成、海相に米内光政の大物を配し、山本五十六を艦隊から呼び戻し軍令部次長に就けている。東条内閣から一転、講和を目的とした夢のような組閣をしている。
ここから先はネタバレになるので記さないが、巷に溢れる幼稚な戦記シミュレーション小説とは異なり、政治的駆け引きと世界戦略や歴史観が丁寧に書き込まれた著作であることだけ明記しておきたい。

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